;
SERVICE

もうドラッカーなんて誰も読まない?『世界の経営学者はいま何を考えているのか』

shadow
book_marketing
idea omori

Author :  

shadow
book_marketing
  • Recruit
  • Recruit

世界の経営学のフロンティアで繰り広げられる知見、その最先端に迫る。

日本人にとって経営やマーケティングのバイブルは、ピーター・ドラッカーやマイケル・ポーター、フィリップ・コトラーでしょう。でも、いま世界で展開されている経営学ではもうそんな人たちの本や論文は読まれていない(?)そうです。グローバルな経営学は遥か彼方へ翔んでしまっているようです、マーケティングにも影響を及ぼす経営学の最前線とはどのようなものなのでしょうか?

新進気鋭の在米日本人経営学者からの問題提起

グローバル化する経営学の最先端の理論を紹介する本書を上梓したのは、ニューヨーク州立大学バッファロー校アシスタント・プロフェッサーの入山章栄氏。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事し、米国ピッツバーグ大学経営大学院博士課程を経て現職という経歴です。

入山さんの文章はとても読みやすく、難解な理論も明解にわかりやすく紹介されていますので、経営学のエッセンスをつかむためのエッセイとしても読むことができます。

その入山さんが「日本人は経営学について勘違いをしている」とおっしゃっています、さてその勘違いとはなんでしょうか?そしてグローバル化する経営学の最先端理論とはどのようなものなのでしょうか。

日本人の勘違い

日本人が抱いているビジネススクールや経営学のイメージは間違っているそうです。

大きくは次の3つ。
①アメリカの経営学者はドラッカーを読まない
②世界の経営学者は科学を目指している
③ハーバード・ビジネス・レビューは学術誌ではない

入山さんは経営学を学ぶためにアメリカに渡って9年になるそうですが、その間に大学や大学院でドラッカーが参考書になったり議論のテーマになったりしたことは一度もなかったそうです。また、ビジネススクールの経営学は、企業経営を科学的な手法で分析し、その結果得られた成果を、教育を通じて社会に還元していくことであり、科学とは世の中の真理を探求することであると述べています。

また、ハーバード・ビジネス・レビューは経営学者が研究してきた蓄積を現実に応用しやすいようにわかりやすく組み直した「意思決定・企業分析のためのツール」が紹介されているだけの本で、学術論文の必須ランクには入っていないそうです。

私自身もピーター・ドラッカーやセオドア・レビット、マイケル・ポーターの理論を基準にしてWebマーケティングなるものを解釈してブログを書いておりますが…入山さんご自身もドラッカーが好きで決して否定しているわけではなくアメリカの経営学の現状がそうなのだ、という事実を述べています。

そして、アメリカの経営学の大学や大学院には世界中から大勢の若者が留学してくるそうで、その中でも日本人留学生は本当に少数でありそのような状況が、グローバル化する経営学の最先端の理論が日本に紹介されない理由でもあるそうです。

最先端の経営学

となると、経営学における最先端の代表的な教科書を読んでみたい!ということになりますが、入山さん曰く「そんな教科書は、無い」そうです。実際には代表的な流派がいくつかあり、そこから様々な理論が展開されているそうです。

経営学の流派は大きくこの3つ。
①経済学ディシプリン
②認知心理学ディシプリン
③社会学ディシプリン

経営学は歴史が新しい学問で、強いて言えば1980年代のマイケル・ポーターの戦略理論によって経営学が確立されたということもあり、現在経営学を専攻している人たちは、経済学、心理学、社会学という領域から経営学に移ってきた、つまりその出自がそれぞれの流派と理論を形成しているのだそうです。

経済学ディシプリンは、経済学を基礎におき「人は本質的に合理的な選択をするものである」という大前提があり、戦略理論のマイケル・ポーター教授がこのカテゴリーに入るそうです。

認知心理学ディシプリンは、「人は経済学が想定するほど合理的ではない」という考え方から出発しており、「システムの科学」という名著があるノーベル賞を受賞したハーバート・サイモン教授がこの流派だそうです。

社会学はアメリカでは進展しており、その影響力はとても大きいそうで、社会学ディシプリンは、統計学やシミュレーションを使って人と人、組織と組織がどのように「社会的に」相互作用をするかという研究がベースになっています。

このように経営学はそれぞれの研究者の経歴によって流派があり、その学問領域を背景にして様々な理論が生まれているのだそうです。

知の最先端

入山さんはこの著作の中で興味深いトピックスを数多く取り上げています。

テーマごとにピックアップすると下記のようになります。
●攻めの競争行動
●トランザクティブ・メモリー
●見せかけの経営効果
●両利きの経営
●ネットワーク理論
●国民性指数
●アントレプレナーシップの国際化
●リアル・オプション
●払い過ぎの買収額
●事業会社のベンチャー投資
●リソース・ベースト・ビュー

攻めの競争原理とは、マイケル・ポーターの競争戦略論(SCPパラダイム)をベースにして近年の競争優位は持続的ではなくなってきており、ハイパー・コンペティションが進展してきていること、それには攻めの競争行動が有効になる可能性があることなどが解説されます。

トランザクティブ・メモリーとは組織において、ある情報を全員が共有するということではなく、誰がどのような知識を持っているかを全員で共有することで現代の組織運営には欠かせないテーマだそうです。

一般のビジネス書で紹介されているような「ある経営方針をとった企業の方が、その後の業績が20%高くなった」などという経営効果は、内生性やモデレーティング効果など、よほど正しい統計学の手法を取っていないかぎり実は参考にならないなどとても面白い分析が書かれています。

このほかにもイノベーションの本質を分析した両利きの企業経営やソーシャルネットワークにも関係するネットワーク理論、海外進出のためには市場分析だけではなく進出する国民や民族の性質も指数化して把握する必要を説いたり、同一の知識で起業家した人や企業はローカルにとどまることが多いが実は国際的に活躍しているという矛盾の謎を解いたり、不確実性の時代こそ計画と学習を両立させるリアル・オプションの経営手法が必要であるとか、はたまた、なぜ買収する企業のCEOは買収額を多く払いすぎてしまうのか、事業会社がスタートアップ企業に出資する傾向が多く見られる理由とその効果の程についての説明など。

そして、ちょっと極端にも感じられる、実際の経営とはあまり関係がない抽象的な理論の展開の仕方そのものに破綻があるのではないかというリソース・ベースト・ビューの論争まで、入山さんの解説する文章は切っ先鋭い刀のような切れ味抜群の面白さで表現されています。

経営学の未来

このように様々な経営学の興味深い理論を紹介した入山さんは、この本の締めくくりで「はたして、経営学は本当に役に立つのでしょうか」と問いかけています。つまり、読み手として存在する私たちのビジネスや経営に実学として使えるのだろうか、という問いです。

前段でも記載したように経営学には様々な流派があり、そこから多くの研究者が理論を生成していく、それも現実に実証されたものではなく因果関係が明確な科学的な理論のみが選考され注目されているところにも問題があるのではないかと提起されています。

それにもまして先行する理論を覆すような刺激的な面白いだけの理論がもてはやされたりすることもあり、年間に発表される理論の90%以上がその後に検証されない仮説になってしまっているそうです。

私はこのような問いをたてられる入山さんに研究者としての誠実さを感じます。

この問いに入山さんは、エビデンス・ベースト・マネジメントという、多くの実証研究で確認された経営法則、定型化された事実法則を企業経営の実践にそのまま応用する手法で解が導き出せないだろうかと仰っています。

実証研究で確認された経営法則とは、理論的な確からしさは証明できないが事実として現象に現れるもの、たとえば「高い目標を設定したチームのほうが、そうでないチームよりも優れたパフォーマンスを上げる」という組織行動研究における定式化法則のことです。

もうひとつ、複雑系を経営学に応用するということ、Google検索やAmazonのマーケティングやインターネットで現れるベキ法則(ロングテール)は組織や経営という人間が関わる現象を表すには相応しいものであること。たとえば、通常では利益率や市場シェアは平均値などの指数を使っているが、業界で1位を獲得した回数を分析していくとベキ法則になる事実から複雑系の思考フレームを導入することに意味があるのではないかと。

そして、入山さんのご指摘でとても興味深いのは、いまのように定数統計的に偏りがちな理論では定性的な分析が抜け落ちてしまうことも大きな問題であると提起されていることです。

時代の流れ

この本を読んで感じたのは、経営学にもインターネットとWebの影響が大きいということです。組織として情報を共有することはクラウドシステムやSNSなしには語ることができなくなりましたし、ネットワーク理論などにおいてもインターネットやSNSが研究対象や実証研究のベースになったりしています。

人間の行動や思考には、かならず環境や構造が影響します。インターネットやWebがもたらすビッグデータとベロシティ効果によるリアルタイムマーケティング、知識の共有から知恵の発揮へ、この流れはほぼ止められないことだと思われます。

しかし、どんなに速い流れで時代が展開しようと人間の情報処理能力には限界があり身体や器官や機能などは急には進化しません、経営やマーケティングはそんな人間の営みです。

私がここで考えたのは、冒頭で誰にも読まれないと書かれたピーター・ドラッカーのことです。入山さんも定数統計的なだけの理論ではなく、定性的なものも取り入れる必要があると述べていました。

ピーター・ドラッカーは膨大な数の企業の経営者や幹部やマネジャーに聞き取り調査を行い、定性的な視点からマネジメント理論を築き上げました。人間をどのように捉えるのかという視点も経営学、とくに現実の実践としての経営やマーケティングに必要なのだと思います。

日本人がビジネスを思考するときに大きなアドバンテージになるのは、この定性的な現象や情報を大切にする視点ではないでしょうか。現代の経営学の最先端の定数統計的な理論を正しく取り入れて、人間が創る定性的な情報や現象を統合する、これが日本人の経営やマーケティングに相応しいのかもしれませんね。

やっぱり日本人って、心が好きなんじゃないかなぁ。

【書籍データ】
『世界の経営学者はいま何を考えているのか』
入山章栄 著
単行本(ソフトカバー): 352ページ
出版社: 英治出版 (2012/11/13)
言語 日本語
ISBN-10: 4862761097
ISBN-13: 978-4862761095
発売日: 2012/11/13
価格: 本体¥1,900 (+税)

SERVICE
  • sns