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マーケティングが成功するかどうかは、結局、運でしょ?

私たちは、自社の商品やサービスを基点にしてマーケティングを考えてしまいます。視点を変えて顧客中心のマーケティングに、などと言ってみたりもしますが「その顧客という人間は、どのような経済行動をする生きものなのか」と問うことはほとんどありません。ビジネス書も「顧客は合理的な判断をする」というもので、マーケティングのメソッドも顧客に合わせて合理的であるべきだという暗黙の了解があります。そのような人間観、顧客観に疑問を呈している一派があります、それが行動経済学です。

できちゃった商品で興奮するな

人は商品開発や起業するときには「おおっ、これは売れるぞ!」と妄想したアイデアで思わず興奮して行動を起こします。しかし、大切なことは、その思いついたモノやサービスをつくるだけではなく、人間に買ってもらわなければなりません。

人間に買ってもらう、すなわち、顧客になってもらう、そうですマーケティングしなければ事業の成功はありません。商品やサービスを買うのは人間です、「人間は経済活動をする際にどのような行動をする生きものなのか」という視点がないと、せっかくのできちゃった商品もまったく買ってもらえないはずです。

それでは、人間は経済活動ではどのような行動をとる生きものなのでしょうか?経済学では「人間は合理的な判断をする」という考え方に基づきさまざまな理論が生まれています。しかし、本当に人間はどのような時でも合理的に行動できるものでしょうか?私自身、自分の行動を振り返っても、衝動買いや、わかっちゃいるけどやめられないお酒に二日酔いになるぐらいお金を出しています(わかっちゃいるなら合理的か;冷汗)。

行動経済学という学派では人間を「決して合理的な行動だけをとる生きものではない」というふうに捉えています。つまり、より実際に近い人間像で経済や市場やマーケティングを考えてみよう、という視点なのです。

オバマ政権も取り入れる行動経済学

オバマ政権では「実践行動経済学」を書いたキャス・サンスティーンが行政管理予算局情報規制室の室長に就任しており、心理学と行動経済学の知識を行政に応用しています。たとえば、臓器移植の承認率に関しても移植カードのデフォルトの選択記載方法によって承認非承認の数に大きく影響するそうです。つまりデフォルトの記載が賛成となっていれば賛成が多く、拒否となっていれば拒否が多くなるという事実です。いくら自己責任の自由意志といったところで、人間はすべてをじっくりと考えようとはしない生きものなのです。

政治にこそ人間に考えやすく、参加しやすくする方法が必要になる、だからいま行動経済学が必要とされているようです、何となくマーケティングにも同じコトが言えそうな感じがします。

また、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンは心理学と行動経済学に基づいた「ファスト&スロー」を上梓しています。カーネマンは、人間における思考と行動について、ファスト=システム1(直感と感情のシステム)、スロー=システム2(意識的に努力しないと起動せず、発動にエネルギーを必要とするシステム)のふたつをとりあげています。

ちょっと、ここで下記の簡単な問題を解いてみてください。

バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
バットはボールより1ドル高いです。
ではボールはいくらでしょう?

瞬間に「ボールは10セントに決まってるだろー」と答えたあなたはシステム1が駆動しました。「ボールは5セントですよね?」と答えたあなた、システム2を駆動させましたね、でも答を出すのにちょっと計算したでしょう。システム1とシステム2はこのような人間の特徴を表しています。つまり、人間は自然とこのように行動してしまう生きものなのだから、人間に対して何かを問いかけたり、行動を起こしてもらうためには、モノの言い方や表現がとても大切になってくる、ということです、このあたりマーケティングはもちろん、コンテンツやクリエイティブの制作に関わっている人にとってはとても興味が湧くテーマです。

また、カーネマンは、プロスペクト理論を提唱しています。これは、「人間が経済行動を起こす場合は、参照点と損失回避が重要になる」というものです。参照点とは、たとえば今現在持っている資産額などのこと、損失回避とは「人間は得も損もするような取引はリスクを回避し、損失が確実な場合はリスクを追求する傾向がある」というもので、金を持っている人や事業がうまくいっている人は積極的にはリスクを取らず、金がなく事業もうまくいってない人は一発逆転の賭けにでることが多い、というものです。どうでしょう、みなさんも心あたりがあるのではないでしょうか?

Prospect1※これはプロスペクト理論をグラフ化したもので、利得と損失の心理的価値を表しています。グラフの中心が中立の参照点で、その右と左とではくっきりと様相が異なる。グラフのカーブはS字で左右対称ではない、損失に対する感応度は利得に関する感応度よりもはるかに強い。

この他にカーネマンは、既存の経済学が想定する合理的人間「エコン」、行動経済学が想定する非合理的人間「ヒューマン」という2つのタイプの人間認識を比較検討したり、人間の錯覚に基づくアンカリング効果やフレーミング理論、平均回帰、後悔と時間についてなど、とても面白く興味深い実験と理論を展開しています。これらはどれもマーケティングを実践するにあたって参照に値するものです。

行動経済学から見れば、今までのビジネス書は役に立たない?

このように、実生活の行動に基いて人間を理解しようとするカーネマンですが、なんと「ファスト&スロー」の中で、ビジネス書やそれらのベストセラー「ビジョナリー・カンパニー」をケチョンケチョンに批判しています、ちょっとその件を読んでみましょう。

「ビジョナリー・カンパニー」を始めとするこの種の本が発信するメッセージは、よい経営手法は学ぶことができるし、それを学べばよい結果がついてくるというものである、だが、どちらのメッセージも、誇張がすぎる。(中略)運が大きな役割を果たす以上、成功例の分析からリーダーシップや経営手法のクオリティを推定しても、信頼性が高いとはいえない。たとえCEOがすばらしいビジョンとたぐいまれな能力を持っているとあなたがあらかじめ知っていたとしても、その会社が高業績を挙げられるかどうかは、コイン投げ以上の確率で予測することはできないのである。
出典:ファスト&スロー 上巻301ページ 

「うーむぅ、ビジネスやマーケティングは、やっぱり、運なのかぁー」と思ったあなた、そうですよね、ダニエル・カーネマンはノーベル経済学賞を受賞している人なんだから、科学的に正しい発言だと思いますよね、つまり、既存のビジネス書は成功事例を合理的に説明してあるだけで、実際の人間観に基いていないのでまったく役に立たないと…でも本当にそうなのでしょうか?

真理は何か?

「ビジョナリー・カンパニー」を激しく非難するダニエル・カーネマンですが、実は「ビジョナリー・カンパニー」の中でジェームス・C・コリンズも、時の政権や為替、税制や金融などの政策、テロや災害、好不況、そして何よりも人と人の出会い、という運を活かし乗り切ることも大事なことだと書いています(「ビジョナリー・カンパニー」もとても興味深い本ですのでぜひご一読を)。

「ファスト&スロー」でカーネマンは、秩序が求められる現象に関してはむやみにシステム1を作動させるのではなく、システム2を駆動させてできる限りミスを減らすことが必要であると言い、「ビジョナリー・カンパニー」のコリンズは、どんな時であれ、どんなことが起ころうと、倦まず弛まず努力したものしか成功しないと言っています。

つまり真理とは、

安易に判断するのではなく、じっくりと考えるクセを付けて、毎日こつこつ励むこと。それでも成功するか失敗するかは、ほとんど運が影響する。

なんと、まったくつまらない、これじゃ親や友人の説教と同じじゃないか!
そうです、しかし、だからこそ真理は普遍的なのです。

しかし、知恵と技術を持たないと市場には参戦できません、それは努力というよりも必要条件なのでやらなければならないことです。インターネットとウェブが人間生活のインフラになってしまった今、企業にとってWebマーケティングは必ずやらなければならないことで、このハイベロシティのブログでご紹介しているWebマーケティングやインバウンドマーケティングは市場に参入するにあたって最低でも準備しなければならないものです(もちろんブログの手法だけで充分ではありません)。

そのうえで「ファスト&スロー」の行動経済学における人間観をいかしてWebマーケティングの精度を上げていく。そしてWebマーケティングにおけるPDCAは、かならず組織のシステム2を作動させること、商品やサービスを購入してくれる顧客は通常はシステム1を作動させている、それを認識したうえでWebマーケティングすることが大事なんですね。そう、Webマーケティングを実践する人にとってこのダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー 上下巻」と出逢うことは、あなたのビジネスにとって運を引き寄せることになるのかもしれません。

最後に、カーネマンは、「システム1を抑えて、システム2を常時作動させるのは、どのような優れた人間であっても不可能である」と悲観的ではありますが、人間として誰もが安心できる結論を発しています。結局人間はそういうどーしようもない生きものなのだそうですから、成功しても自分の脳力だなどと自意識過剰にならず、失敗したからといって無闇に落ち込むこともなく、こつこつ毎日を生きて行きましょう。

近頃のビジネス書は人間の心に注目しつつあるのでリアリティが感じられて、とても面白いです。
「ファスト&スロー 上下巻」 ダニエル・カーネマン著 早川書房

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